法人に使途秘匿金の支出がある場合の課税

使途秘匿金の支出がある場合の課税

法人が支出する費用については、帳簿書類にその支払先に関する記録をしておかなければならないこととなっているのですが、

なかには、その支出の事実をだれにも知られたくない、一切記録に残したくない、というものがあるかもしれません。

たとえば、政治家に対するヤミ献金であるとか、反社会的勢力に対するものとかのように、企業の社会問題に対する口封じのために”有力者”に渡すお金であるとか、談合のためのお金など、

もしあるとすれば、そういったものが該当することになるでしょう。

 

法人のこのような支出を「使途秘匿金」と呼ぶのですが、

仮にこのような使途秘匿金の支出があった場合には、通常の方法で計算した法人税の額に加えて、一種の懲罰的な課税がされることとなっています。

 

今回は、法人に使途秘匿金の支出がある場合の課税について、見てみましょう。

 

 

使途秘匿金の支出とは

使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引き渡しを含みます。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名または名称、住所または所在地、その事由(相手方の氏名等)を、その法人の帳簿書類に記載していないものをいいます。

 

要するに、はじめから記録を一切残さないようにしている支出のことをいいます。

 

 

使途秘匿金の支出とはならないもの

次のようなものは、たとえ帳簿書類に相手方の氏名等が記載されていなくても、使途秘匿金にはなりません。

「相当の理由がある」ということで、認められているのでしょう。

 

資産の譲受などの取引の対価として明らかであるもの

いくら帳簿書類に相手方の氏名等が記載されていなくても、その金銭等の支出が、資産の譲受などの取引の対価として明らかであるものは、使途秘匿金の支出には該当しないとされています。

 

税務署長が、秘匿するためのものでないと認めるもの

税務署長は、法人がした金銭等の支出のうち、その相手方の氏名等が帳簿書類に載っていないからといっても、それが相手方の氏名等を秘匿するためのものでないと認めるときには、その金銭等の支出は、使途秘匿金の支出にはならないこととなっています。

 

公益法人等などへの支出であるもの

公益法人等または人格のない社団等の収益事業以外の事業にかかる金銭の支出については、使途秘匿金の課税はされないこととなっています。

 

 

迂回して支出した場合も使途秘匿金の対象

上記の使途秘匿金については、法人が金銭等の支出の相手方の氏名等を帳簿書類に記載していたとしても、それが単なる名義人であって、実際にはその記載された者を通じてそれ以外の者に支払われているような場合には、相手方の氏名等が記載されていないものとして(つまり使途秘匿金として)取り扱われます。

 

他の名義を使って迂回して支払ったとしても、それは使途秘匿金の支出に該当するということです。

 

 

使途秘匿金の支出に対する課税

法人は、使途秘匿金の支出がある場合には、その支出について法人税を納める義務があり、

通常の法人税の税率で計算した法人税の額にその使途秘匿金の「支出額の40%」が加算されることとなります。

 

<例>

100の支出

法人税率30%

とします。

 

通常の費用の場合:損金算入

100の費用に対して30の税負担軽減あり

実質70の支出

 

使途秘匿金の場合:損金不算入

100の費用の支出

損金不算入で30の税負担軽減なし

使途秘匿金課税で、100×40%=40の課税

合計140の支出

 

重加算税の取扱い

国税庁の事務運営指針に重加算税のことが記載されているので、ここにも紹介しておきます。

 

使途不明金および使途秘匿金の取扱い

使途不明の支出金に係る否認金につき、次のいずれかの事実がある場合には、その事実は、不正事実に該当することになります。

なお、その事実により使途秘匿金課税を行う場合のその使途秘匿金に係る税額に対しても重加算税が課税されます。

  • 帳簿書類の破棄、隠匿、改ざん等があること。
  • 取引の慣行、取引の形態等から勘案して通常その支出金の属する勘定科目として計上すべき勘定科目に計上されていないこと。

 

つまり、不正事実があれば、重加算税の対象となり、使途秘匿金に対する税額にも重加算税が課税されるということです。

 

 

使途不明金との違い

使途不明金と使途秘匿金とはよく似た言葉ですが、違いがあります。

 

使途不明金は、使途が不明である金額のことです。

ですから、支出の相手方の氏名等自体は記載されているものの、その使途が明らかにできない場合が多いものです。

仮装隠蔽して経理している場合には外注費で処理することが多いと思われますが、実態としては交際費とすべき使途不明金が結構多いと思われます。

 

これに対して、使途秘匿金は、秘密にしている支出のことです。

上記に記載した通り、相手方の氏名等の記載がないもの(記載する意思がないもの)で、使途秘匿金課税の対象となります。

 

このような違いがあるとの認識でよいと思います。

 

 

質問検査権(参考)

国税庁、国税局、税務署の職員には質問調査権がありますが、使途秘匿金の支出について課税されたからといっても、その相手方の氏名等に関して質問調査権がなくなるものではないとされています。

 

 

ご覧いただきまして誠にありがとうございました。

※この記事は、作成時点の法令や経験をもとに概要を記載したもので、記載内容に相違が生じる可能性があります。

また、記事中の特に意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては必ず個別具体的な内容をお近くの税理士や税務署などにご確認くださいますようお願い申し上げます。