借り上げ社宅の家賃を短期前払費用として一括して支払うとき

借り上げ社宅の家賃を短期前払費用として一括して支払うとき

会社名義で従業員のマンションの部屋を借り上げて、その部屋を役員や従業員の社宅として貸し付けることがあります。

役員や従業員に貸し付ける際の家賃は、会社が借り上げるときに支払う家賃よりも低く抑えることができるため、特にオーナー会社にとっては節税の一方法として、また従業員への福利厚生制度として採用されているところもあります。

 

また、短期前払費用ということで、一定の前払費用を支出時に損金に算入する特例を適用することで、こちらも一般的な節税方法として、あるいは経理の簡便化策として採用している会社も多いと思います。

 

それでは、借り上げ社宅の家賃を短期前払費用として一括して支払うときには、何も問題がないといえるのでしょうか。

今回は、借り上げ社宅の家賃を短期前払費用として一括して支払うときの注意点について、見てみたいと思います。

 

 

短期の前払費用

一定の短期の前払費用については、短期前払費用の特例というものがあり、

支払った日から基本的に1年以内に提供を受ける役務にかかる前払費用を会社が支払った場合で、その支払った金額を毎期継続してその支払った事業年度の損金の額に算入しているときには、その損金算入が認められています。

これは企業会計上の重要性の原則に基づいて税務上でも認められている特例となっています。

この特例があるので、たとえば1年間分家賃費用を一括して前払で支払ったとしても、いちいち月割り、日割りなどによる、期間按分の計算をしなくてもよいこととなっています。

 

 

収益と費用を対応させる必要がある場合の前払費用

上記のように、1年以内に受ける役務の提供に係る短期前払費用を継続して損金算入することが特例として認められているのですが、

収益と費用を対応させる必要がある場合の前払費用については、その特例が認められておりません。

たとえば、有価証券の運用のための借入金利子のように、収益と費用を対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められないことが、基本通達にも明記されています。

 

短期前払費用の特例は、企業会計上の重要性の原則に基づいて税務上でも認められている特例となっているのですが、

企業会計上の費用収益対応の原則を適用すべきものについてまで短期前払費用の特例を適用させるのは、正確な所得計算をするうえで弊害が生じてしまうとの考え方から、

収益と費用を対応させる必要がある場合には制限が設けられているのです。

 

そこで冒頭の借上げ社宅の家賃ですが、借り上げ社宅である以上、会社はその社宅の入居者である役員や従業員から家賃をもらうことになりますので、

会社が支払う家賃と、会社が入居者からもらう家賃とを対応させる必要があるということになります。収益と費用を対応させる必要があるということです。

 

多くの会社では、借り上げ社宅の家賃については、役員や従業員の月々の報酬・給料から差し引かれていることが多いと思いますが、

これでは会社が家賃1年分を一括して支払うときの短期前払費用の特例との対応関係がとれません。

したがって、借り上げ社宅の家賃を1年分を一括して支払ったとしても、短期前払費用の特例の適用を受けることはできないこととなりますので、注意が必要といえます。

 

 

ご覧いただきまして誠にありがとうございました。

※この記事は、作成時点の法令や記載者の経験等をもとに概要を記載したものですので、記載内容に相違が生じる可能性があります。

また、記事中の特に意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては必ず個別具体的な内容をお近くの税理士や税務署などにご確認くださいますようお願い申し上げます。