いったん否認された貸倒損失の認容処理について
否認された貸倒損失の認容処理について
当社が有している取引先に対する売掛債権について、その取引先が債務超過の状態が継続しており、回収見込みがないと判断したことにより、その売掛債権の全額を貸倒損失に計上していたが、税務調査により、担保物の処分が済んでいないことから貸倒損失が認められなかった場合において、
その後、担保物の処分もおわり、以前は認められなかったその取引先に対する売掛債権の全額を損金に算入したいとしたときに、申告調整での認容処理が認められるのかどうかについて、見てみましょう。
税務上の貸倒れが認められる場合
税務上の貸倒れが認められるのは、次のケースのいずれかに該当したときとなります。
- 金銭債権の法律的な消滅による場合
- 金銭債権が法律的には消滅していないが、債務者の資産状況や支払能力からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかである場合
- 一定期間取引停止後弁済がない場合
ここで、冒頭の話しについては、
2.の「金銭債権が法律的には消滅していないが、債務者の資産状況や支払能力からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかである場合」に該当することとなり、
その明らかとなった事業年度において損金経理をすることが認められているものです。
ただし、留意点としては、担保物がある場合にはこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にはできないので、
税務調査等により担保物の処分が済んでいないことが判明すれば修正申告等が必要となってきます。
申告調整での認容処理について
取引先に対する売掛債権の全額が回収不能として損金経理をしたことが、担保物の処分が済んでいないことから認められなかったものの、
その後の事業年度において、担保物の処分もおわったので、以前は認められなかったその取引先に対する売掛債権の全額を損金に算入したいとしたときに、
申告調整での認容処理が認められるのでしょうか。
具体的には、別表四での減算処理が認められるかどうか、ということとなります。
たしかに通達には、
「債務者の資産状況、支払能力等からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することが認められる」とされているので、
明らかになったその後の事業年度と、過去に損金経理した事業年度とは、別々の事業年度であることから、ふと疑問が生じてしまいます。
しかし、過去にした損金経理(貸倒損失)が否認された場合には、
その後の事業年度において当社において具体的な事実に基づいて処理がされるのであれば、その後の事業年度における損金経理にはこだわることなく、
過去に否認された貸倒損失については、申告調整での認容処理が認められるものと考えられます。
実定法上の根拠はない
通達においては、「債務者の資産状況、支払能力等からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することが認められる」とされていますが、
また一方で、「債権の回収ができないことが明らかになった事業年度中に貸倒れとして損金経理をしていなければ、その後になってその債権について貸倒損失であると主張することができなくなるというという実定法上の根拠はない」とされる判示がされています。
つまり、ここでは貸倒損失の計上には損金経理が絶対的な要件ではないということが示されていると考えられます。
事実上回収不能であることの立証が必要
「金銭債権が法律的には消滅していないが、債務者の資産状況や支払能力からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかである場合」の貸倒損失の計上が認められるためには、
客観的に見て、実際に全額が回収不能であることを立証する責任が会社側にあるといえます。
会社としては、その証拠資料を取り揃えておくことが必要といえます。
これにより、実際にどの事業年度に回収不能であることが明らかになったのか(担保物の処分がおわったのか)、それにより損金算入時期を会社の利益水準によって操作していないこと等を立証することができれば、
その後の事業年度における申告調整での認容処理も認められるものと考えます。
ご覧いただきまして誠にありがとうございました。
※この記事は、作成時点の法令や記載者の経験等をもとに概要を記載したものですので、記載内容に相違が生じる可能性があります。
また、記事中の特に意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては必ず個別具体的な内容をお近くの税理士や税務署などにご確認くださいますようお願い申し上げます。