貸倒損失を売上高の借方計上としてもよいのか

貸倒損失を売上高の借方計上としてもよいのか

貸倒損失が発生したときに、そのことを外部に明らかにしたくないなどの理由から、

その損失額を売上高の借方計上としたとしても、それが損金経理をしたこととして認められるのかどうかについて、見てみましょう。

 

 

税務上の貸倒れが認められる場合

税務上の貸倒れが認められる場合には、次のいずれかの場合に該当したときとなります。

  • 金銭債権が法律上消滅したことによる場合
  • 金銭債権が法律上は消滅していないが、債務者の資産状況や支払能力からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかである場合
  • 一定期間取引停止後弁済がされない場合

 

 

損金経理要件

原則としては、会社に貸倒れが生じたときには、貸倒損失として損金経理をおこないます。

そして基本的に、貸倒損失は、損金経理をした事業年度において、その経理した金額を損金の額に算入することなります。

 

※なお、損金経理とは、会社において、確定した決算において費用または損失として経理することをいいます。

 

 

原則的な貸倒損失の計上方法

原則的な貸倒損失の計上方法はつぎのとおりとなります。

 

・通常の取引において生じた貸倒損失は、販売費に計上します。

・販売費とされるもの以外の貸倒損失は、営業外費用に計上します。

・ただし、異常な貸倒損失であれば、上記にかかわらず、その損失額は特別損失に計上することとなります。

 

これらの処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った計上方法であると考えられるので、

このような計上方法で貸倒損失を計上した場合には、当然として貸倒損失が損金経理されたものとして認められております。

 

<仕訳例>

貸倒損失 100 / 売掛金 100

 

 

売上高の借方計上とした場合

たとえば、貸倒れが生じたときに、つぎのような仕訳で処理した場合はどうでしょうか。

 

<仕訳例>

売上高 100 / 売掛金 100

 

一般に公正妥当な会計処理では、このような仕訳は、売上値引や売上戻り、売上割戻しの場合には行いますが、

これを貸倒損失の損金経理として行うには無理があると考えます。

したがって、貸倒損失額を売上高の借方計上にして仕訳をしたとしても、それが損金経理をしたこととして認められる可能性はないものと考えます。

 

 

元帳で原則処理して、組み替え表示をした場合

それでは、元帳上では原則的な貸倒損失の計上をしたうえで、決算上の組み替え表示をした場合はどうでしょうか。

たとえば、つぎのような処理です。

 

<元帳の仕訳例>

貸倒損失 100 / 売掛金 100

 

<組み替え表示>

売上高 100 / 貸倒損失 100

 

このような処理にすると、

貸倒損失が発生したことが、外部には明らかにはならないでしょう。

 

元帳上は、原則としての、会社に貸倒損失が生じたときの貸倒損失としての損金経理はおこなっています。

決算上は組み換え表示を行っているので、決算書では貸倒損失が相殺処理されておもてには表れません。

 

これについては色々とご意見があるかもしれません。

私見ですが、決算書では売上高の借方表示にはなっていますが、

元帳上で貸倒損失として損金経理をおこなっているのであれば、(かつ、貸し倒れの事実を証する書類の保存をしているのであれば、)

その貸倒損失は損金経理をしたものであると認められると考えます。

 

 

よく似た処理(参考)

貸倒引当金等についても、毎期、総額での洗い替え仕訳をおこなうことがあります。

その場合には、損益計算書の貸借額が両建てとなって膨らまないように、決算上の組み替えをおこなうこともあると思います。

もっともたとえ差額補充であったとしても、明細書において損金経理を示すことはできますが、

元帳上において洗い替え仕訳をおこなうことと、決算上での組み替え表示を行うことを、セットでされる会社もあることと思います。

このような処理が損金経理をしたものとして認められていることと、今回のお話が似ているところがあるのではないでしょうか。

 

 

ご覧いただきまして誠にありがとうございました。

※この記事は、作成時点の法令や記載者の経験等をもとに概要を記載したものですので、記載内容に相違が生じる可能性があります。

また、記事中の特に意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては必ず個別具体的な内容をお近くの税理士や税務署などにご確認くださいますようお願い申し上げます。