退職金の受け取り「一時金」と「年金」の課税方法の違い、メリットとデメリット

退職金の受け取り方法のパターン

退職金制度の整った会社を退職すると、一定のルールに従って計算された退職金を会社などから受け取ることになります。

会社員の退職金の受け取り方法は、基本的には「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」といった3つのパターンが考えられますが、勤務先の退職金制度によってすべてのパターンを選択できることもあれば、「一時金」のみに限定されていることもあり様々といえます。

今回は、一括して受け取る「一時金」を選択した場合と、年々分割して受け取る「年金」を選択した場合の課税方法の違いについて見てみましょう。

 

「一時金」を選択した場合の課税方法とメリット

課税方法

一時金を選択した場合には、その所得区分は「退職所得」となります。(分離課税)

退職所得の金額は、原則として、次のように計算します。

<計算式>

(収入金額 - 退職所得控除額※) × 1 / 2 = 退職所得の金額

 

※退職所得控除額:

40万円 × 勤続年数(最低でも80万円)

勤続年数が20年を超えると、超える部分の勤続年数には40万円ではなく70万円を乗じて計算します。

 

確定給付企業年金などで自己負担の保険料や掛金がある場合には、収入金額から自己負担の保険料や掛金の額を差し引きます。

収入金額は、iDeCoなどの一時金と合算されます。

役員等としての勤続年数が5年以下(1年未満の端数は切り上げ)の場合は、上記<計算式>の「×1/2」の適用はありません。

 

メリット

  • 定年してすぐに退職金を一括して一時に受け取ることができる。
  • 退職所得控除があり、かつ「×1/2」の所得金額となるので税制上有利となりやすい。
  • 分離課税(他の所得と合算しない。)なので、所得税の超過累進税率が低い税率となりやすい。
  • 社会保険料の対象にならない。

以上のとおり、退職所得になると、すぐに多くの手取り額が手に入ることになります。

 

「年金」を選択した場合の課税方法とメリット、デメリット

課税方法

「年金」を選択すると、「公的年金等に係る雑所得」という所得区分になります。(総合課税)

公的年金等に係る雑所得の金額は、次のように計算します。

<計算式>

(a)×(b)-(c)=公的年金等に係る雑所得の金額

公的年金等に係る雑所得の速算表(平成17年分から令和元年分まで)
年金を受け取る人の年齢 (a)公的年金等の収入金額の合計額 (b)割合 (c)公的年金控除額
65歳未満 (公的年金等の収入金額の合計額が700,000円までの場合は所得金額はゼロとなります。)
700,001円から1,299,999円まで 100% 700,000円
1,300,000円から4,099,999円まで 75% 375,000円
4,100,000円から7,699,999円まで 85% 785,000円
7,700,000円以上 95% 1,555,000円
65歳以上 (公的年金等の収入金額の合計額が1,200,000円までの場合は、所得金額はゼロとなります。)
1,200,001円から3,299,999円まで 100% 1,200,000円
3,300,000円から4,099,999円まで 75% 375,000円
4,100,000円から7,699,999円まで 85% 785,000円
7,700,000円以上 95% 1,555,000円

(国税庁HPより)

なお、令和2年分からは、表中の公的年金控除額が10万円引き下げられるなど、いくつかの改正があります。

公的年金等の収入金額は、iDeCoなどの年金と合算されます。

 

メリット、デメリット

メリット
  • 公的年金等控除額を差し引いて所得税の計算をすることができるので、一定額(例:65歳以上なら年120万円)までは所得税はかからない。
  • 年金の運用収益が期待できる。(確定給付年金なら一般的に会社負担の運用利回りが約束されるが、確定拠出年金なら運用結果に左右されます。)
デメリット
  • 社会保険(国民健康保険料や介護保険料など)の対象となる。(再雇用などで働いていてそこで社会保険料が発生していれば、ここでのデメリットにはならない。)

 

さいごに

総支給額では年金の方が有利に見えても、税金や社会保険料が差し引かれた手取額でいえば概ね一時金の方が有利になることが多いです。とはいえ、年金の運用利回りや、年金が有期なのか終身なのかにもよって異なりますし、手取り額よりもご自身の生活設計や資金感覚の方を優先するかによっても判断が異なってくると思われます。

 

退職金の使い道ですが、退職後の老後のために資金を手堅く残して賢く運用しつつ、または残ったローンなどの返済をしつつも、

せっかく退職してまとまった金銭を受け取ったのだから、会社員時代には、時間的にも、金銭的にも、もしかしたら精神的にも余裕がなくてあきらめていたかもしれないことに対して、無理のない範囲で大盤振る舞いして一気に使ってみることもよいのではないでしょうか。

趣味のことでも、家族に関することでも、起業のことでも、ご自身で選択されたことにお金を使って大いに結構だと思います。

もちろん自己責任の範囲内ですが、先々の人生を楽しむためにも、将来悔いが残らないようにするためにも、気持ちよく使ってみることをお勧めします。退職したからといっても、まだまだ先の長い輝ける人生が開かれているのですから。

 

ご覧いただきまして誠にありがとうございました。

※この記事は、作成時点の法令または経験などをもとに記載したものです。法改正などにより記載内容に相違が生じる可能性があります。

記事中の意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては個別具体的な内容をお近くの税理士にご相談くださいますようお願い申し上げます。