債務者の代理人弁護士の要請により債権を放棄したときの貸倒損失

債務者の代理人弁護士の要請により債権を放棄したときの貸倒損失

たとえば、当社の得意先で、昨年末ごろから資金繰りが悪化したことにより、当社を含む各債権者に対する債務の支払いが困難になっている得意先があったとします。

その得意先は現在、代理人弁護士による私的整理をすすめているところで、当社に対して売掛債権の60%について債権放棄することを求めてきたので、当社はそれを受けることとし、「書面にて」その旨をその得意先に通知しました。

 

このような場合に、その債権放棄した額を税務上の貸倒損失として計上することができるかどうか、見てみましょう。

 

貸倒損失が計上できる場合

法人税法の基本通達においては、次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されることになっています。

 

1.会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額

2.法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額

3.債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

 

書面による債権放棄の要件

債権放棄を書面にて行えば、それが税務上の貸倒損失としてただちに認められるわけではありません。

上記の3に記載のとおり、

  • 債務者の債務超過の状態が相当期間継続していること
  • その金銭債権の弁済を受けることができないこと
  • その債務者に対して、書面で債務免除額を明らかにしていること

が要件となっています。

 

冒頭の事例では

冒頭の事例では、

昨年末ごろからの資金繰り悪化であれば、急なものであり、債務超過の状態が相当期間継続しているとはいえませんので、このような状況ではまだ貸倒損失は認められません。

また、私的整理については、現在進めている状況となっています。

仮に、私的整理が進んで、

上記の2に記載のとおり、

債権者集会の協議決定や、金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられたとなれば、貸倒損失として認められることとなります。

 

債務免除が贈与と認められる場合

債務者に対して債権を免除した場合であっても、それがその債務者に対する贈与であると認められるときには、その債務免除額を単純に損金に算入することは認められず、別途、寄附金の損金算入額の計算をすることとなります。

 

 

ご覧いただきまして誠にありがとうございました。

※この記事は、作成時点の法令や経験をもとに概要を記載したもので、記載内容に相違が生じる可能性があります。

また、記事中の特に意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては必ず個別具体的な内容をお近くの税理士や税務署などにご確認くださいますようお願い申し上げます。