個人事業者の貸倒引当金(一括評価)
個人事業者の貸倒引当金
事業をしている個人事業者が青色申告の承認をうけている場合には、青色申告の承認をうけていない白色申告者よりも税制上のメリットが多いのですが、その中の一つに「一括評価の貸倒引当金」の計上ができるというものがあります。
現金商売であればそもそも商売上の売掛金などの債権がまず存在しないので、貸し倒れに備えて貸倒引当金を計上するようなことはありませんし、
現金商売ではなく掛取引であったとしても、この貸倒引当金の計上を積極的にしている個人事業者が多数であるとは思えないのですが(債権額の大きさとか業種などにもよるでしょうが)、
その年の年末の債権の合計額に一定率をかけて計算した貸倒引当金については必要経費になるということですので、いちおう検討してみる余地はあると思います。
それでは今回は、事業をしている個人事業者の一括評価の貸倒引当金について、見てみましょう。
一括評価の貸倒引当金とは
事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者で、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金などの債権の貸倒れによる損失の見込額として、年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%(ただし、金融業の場合は 3.3%)以下の金額を貸倒引当金勘定へ繰り入れたときは、その金額を「必要経費」として認めるというものです。
つまり、
年末の債権残高 × 5.5%
この金額を必要経費にすることができるというものです。
ただし、債権のうちに、通常の債権ではなく、回収不能のような一定の債権がある場合には、その一定の債権の金額は除いて計算することになります。
その一定の債権の金額については、一括評価の貸倒引当金とは別に、個別に貸倒引当金を計上することができるから、というのがその理由となっています。
一括評価の貸倒引当金の対象となる債権の種類
一括評価の貸倒引当金の対象となる債権として、つぎのようなものがあります。
- 売掛金
- 事業上の貸付金
- 受取手形
- 未収加工賃、未収請負金、未収手数料、未収保管料、その他事業所得の収入となる債権
一括評価の貸倒引当金の対象とならない債権の種類
一括評価の貸倒引当金の対象とならない債権としては、つぎのようなものがあります。
- 保証金、敷金、預け金
- 手付金、前渡金
- 仮払金(実質で判断します。)、立替金
- 雇用保険法などに基づいて交付される給付金の未収金
- 仕入割り戻しの未収金
- 同一の得意先に売掛金と買掛金があるなど、実質的に債権とは認められない部分の金額
翌年の処理
事業所得の計算上、必要経費にした貸倒引当金の金額は、その翌年の事業所得の計算上繰り戻しをして、「収益」に計上することになります。
そして、翌年においても、
年末の債権残高 × 5.5%
が必要経費となります。
前年分の繰り戻しをして、本年分の繰入れをするという
洗い替え処理となるので、
年末の債権額が毎年ほぼ一定しているような個人事業者にとっては、ほとんどプラスマイナスゼロのような状況になります。
そのような個人事業者にとっては、
貸倒引当金を計上しはじめた最初の年の経費だけが”得をした”状態になり、その後の年は、ほぼ影響がありません。
これが個人事業者があまり積極的には貸倒引当金を計上しているわけではない(と筆者が感じている)理由の一つだと思われます。
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※この記事は、作成時点の法令や経験をもとに概要を記載したもので、記載内容に相違が生じる可能性があります。
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