所得税の青色申告特別控除65万円の要件の追加による個人事業者への影響

2018年度の税制改正により、2020年度から青色申告特別控除が、2種類(65万円、10万円)から3種類(65万円、55万円、10万円)に変更になります。

この記事では、青色申告特別控除の改正前後の内容の確認を行うことと、同時期の改正で基礎控除額が引き上げられることについても少しふれてみたいと思います。

改正前の青色申告特別控除は2種類

2019年度(2020年2月16日〜2020年3月15日の確定申告)までは、青色申告特別控除は、特別控除額が65万円又は、10万円の2つの種類があり、それぞれに要件があります。

 

65万円の特別控除を受けるための要件

65万円の特別控除が適用されるのは、事業所得や不動産所得を生ずべき”事業”を行っている次の要件を満たす個人事業者であり、その個人事業者の事業所得、不動産所得、山林所得から控除されます。

  • 取引を複式簿記により発生主義で記帳すること。
  • 確定申告時に損益計算書(青色申告決算書)及び、貸借対照表を作成すること。
  • 申告期限までに確定申告書を提出すること。

 

10万円の特別控除を受けるための要件

これに対して、10万円の特別控除を受けるための要件は次の2点です。

  • 記帳すること。ただし、簡易帳簿で可とします。
  • 確定申告時に損益計算書(青色申告決算書)を作成すること。

 

以上のとおり、65万円の特別控除と10万円の特別控除の要件の大きな違いは、記帳のやり方や、作成する青色申告決算書類(貸借対照表の提出)となっています。

 

改正によって2種類から3種類に増える青色申告特別控除

2018年度の税制改正により、2020年分以後の個人事業者の青色申告特別控除は、基本的には、55万円、又は10万円となり、一定の要件を満たした個人事業者の方のみ、引き続き65万円の特別控除が受けられるようになります。

つまり、青色申告特別控除は、65万円、55万円、又は10万円の3種類になります。

 

引き続き65万円の特別控除が受けられるための要件

改正前の65万円の特別控除を受けるための要件を満たしている個人が、次のいずれかの要件を満たした場合には、2020年度以降も引き続き65万円の青色申告特別控除の適用を受けることができます。

  1. 電磁的記録の備付け及び保存をしている場合
  2. e-Taxにより電子申告をしている場合

 

1.電磁的記録の備付け及び保存

この要件を満たすためには、国税関係帳簿の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合であって、電磁的記録による備付け並びに電磁的記録又は電子計算機出力マイクロフィルによる保存を行う場合に、税務署長に対してその備付け等の開始日の3月前まで(2020年度に限っては年内でも可)に承認申請することが必要となります。

磁的記録等の保存等は、適正公平な課税の確保に必要な一定の要件に従った形であることが求められています。

本来は紙で保存するものを、単にパソコンの会計ソフトにデータを保存しているから、という程度ではこの要件は満たせないのです。

 

この要件は簡単ではない、と捉えていただいたほうがよいと思います。

この要件よりは、まずは、次の「e-Taxによる電子申告」の要件を満たす方を選択すればよいと思います。

 

2.e-Taxによる電子申告

「e-Tax」とは、国税庁が運営する、国税に係る申告・申請・納税に係るオンラインサービスの愛称です。

国税に関する手続きをインターネット上で行うことができます。

国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」から作成でき、市販の会計ソフトから取り込んだデータを送信することも可能となっています。

基本的に「マイナンバーカード」と、それを読み取る「ICカードリーダー」が必要になりますが、税務署でIDとパスワードを発行してもらうことによるe-Taxの利用も可能となっています。

 

この「e-Tax」の仕組みを利用して、所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、その提出期限までに行えば、2020年度分以降の所得税についても引き続き65万円の青色申告特別控除を適用することができます。

 

同時期の改正で、基礎控除額が引き上げ

青色申告特別控除の改正と同時に、所得控除である基礎控除額が、一律38万円から”原則として”48万円に、10万円引き上げられます。

”原則として”というのは、

一定の個人については基礎控除額に制限がかかるようになり、例えば合計所得金額が2,400万円を超える個人については、その合計所得金額に応じて控除額が逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用がなくなることとなっています。

 

ほとんどの個人事業者については、基礎控除額が、一律38万円から48万円に、10万円引き上げられると考えておいてよろしいのではないでしょうか。

 

 

まとめ

  • 2020年度から、青色申告特別控除が、2種類(65万円、10万円)から3種類(65万円、55万円、10万円)に変更になる。
  • 従来通り65万円控除を受けるためにはe-Taxの利用がおすすめ。
  • 同時期の改正で、基礎控除額が原則として10万円引き上げられる。
  • 要件を満たす個人事業者にとっては有利な改正といえる。

 

 

ご覧いただきまして誠にありがとうございました。

※この記事は、作成時点の法令や情報をもとに概要を記載したものです。法改正等があった場合には記載内容に相違が生じる可能性があります。

また、記事中の特に意見部分については記載者の見解ですので、実際の適用においては個別具体的な内容をお近くの専門家にご相談くださいますようお願い申し上げます。